近年、対人関係やストレス管理に悩む人が増える中で、「アドラー心理学」への注目が高まっています。
書籍『嫌われる勇気』のベストセラーをきっかけに広く知られるようになったアドラー心理学は、「誰もが幸せになれる」という前提のもと、実践的な人生改善の方法を提示する心理学です。
本記事では、アドラー心理学の基本的な考え方から具体的な実践方法まで、初心者にもわかりやすく解説します。
職場での人間関係改善や自己成長に活用できる知識が満載ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
アドラー心理学とは何か?基本的な考え方
アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870-1937)が創始した心理学です。
正式名称は「個人心理学」ですが、日本では通称の「アドラー心理学」として親しまれています。
アドラー心理学の最大の特徴は、「人は目的を持って行動し、幸せになるには勇気が必要である」という考えに基づいていることです。
フロイトやユングと並んで「心理学の三大巨頭」と称されるアドラーは、人間を精神と肉体、意識と無意識などで分割せず、統一された存在として捉える全体論を提唱しました。
アドラー心理学の歴史的背景
アドラーは当初フロイトの共同研究者でしたが、学説上の対立により決別しました。
フロイトが「過去の経験が現在を決定する」という原因論を重視したのに対し、アドラーは「将来の目的を達成するために人は行動する」という目的論を提唱したのです。
現代におけるアドラー心理学の普及は、2013年に出版された『嫌われる勇気』の大ヒットがきっかけとなりました。
SNSによる対人関係の複雑化や、承認欲求に疲弊する現代人に、アドラー心理学の考え方が一筋の光を与えたと言えるでしょう。
アドラー心理学の特徴的な5つの基本理論
アドラー心理学は「誰もが幸せになれる」という前提のもと、5つの基本理論を展開しています。
これらの理論を理解することで、アドラー心理学の全体像を把握できるでしょう。
自己決定性:人生の主役は自分自身
自己決定性とは、「人生の責任は自分の手に委ねられている」という考え方です。
置かれた環境をポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかを決めるのは自分自身だとアドラーは主張しています。
例えば、希望していない部署に配属された場合でも、「新しい可能性を見つけるチャンス」として捉えることができます。
環境や過去の出来事を理由に自分の可能性を制限するのではなく、主体的に人生を選択していく考え方が自己決定性の核心です。
目的論:行動には必ず目的がある
目的論は、「人の行動には必ず目的がある」という考え方です。
フロイトの原因論が「過去の出来事が現在を決める」と考えるのに対し、アドラーは「未来の目的を達成するために現在の行動を選択している」と捉えます。
例えば、仕事で失敗した際に「なぜこうなったのか」と原因を探るのではなく、「どうすればより良い結果を得られるか」という目的に焦点を当てることで、建設的な解決策を見出せるようになります。
この考え方により、過去に縛られることなく、未来に向けて積極的に行動できるようになるのです。
全体論:心と身体は一つの存在
全体論とは、人間を「心と身体」「理性と感情」「意識と無意識」などに分割せず、統一された全体として捉える考え方です。
「頭ではわかっているけれどできない」という状況を、アドラー心理学では「やめられないのではなく、やめたくないだけ」と解釈します。
人の心に矛盾はないという前提のもと、思考と行動を一致させることで、より統合された生き方を実現できるとしています。
認知論:誰もが主観的に世界を見ている
認知論は、「誰もが自分だけのメガネを通してものを見ている」という考え方です。
客観的な事実よりも、個人の主観的な解釈が行動に大きな影響を与えると考えられています。
同じ出来事でも、人によって受け取り方や意味づけが異なるため、誤った思い込みを防ぐには「共通感覚」を身につけることが重要です。
自分の物差しだけでなく、他者の視点からも物事を見ることで、より客観的な判断ができるようになります。
対人関係論:すべての行動には相手がいる
対人関係論は、「人間のあらゆる行動には相手役がいる」とする考え方です。
アドラーは「人間の悩みのすべては対人関係の悩みである」という有名な言葉を残しており、人は特定の状況・相手・目的によって行動や感情を使い分けると考えました。
職場での顔、家庭での顔、友人との関係など、それぞれの場面で見せる姿は異なります。
その人がどのような対人関係を築いているかを観察することで、その人自身の特徴や価値観を理解できるとしています。
アドラー心理学の実践における重要な技法
アドラー心理学を日常生活に活かすためには、具体的な技法を理解し実践することが重要です。
ここでは、特に効果的とされる2つの技法について詳しく解説します。
課題の分離:自分と他者の境界を明確にする
課題の分離とは、「自分でコントロールできることと、できないことを明確に区別する」思考法です。
この技法により、他者の感情や行動に振り回されることなく、自分自身の課題に集中できるようになります。
自分の課題 | 他者の課題 |
---|---|
自分の行動や選択 | 他者の反応や評価 |
努力や準備 | 結果の受け取り方 |
発言の仕方 | 相手の理解度 |
改善への取り組み | 他者の変化 |
例えば、会議での発言を不安に感じる場合、「相手がどう思うか」は他者の課題です。
自分にできることは、わかりやすく伝える工夫や十分な準備をすることであり、相手の評価をコントロールすることはできません。
この区別を明確にすることで、建設的な行動に集中できるようになります。
勇気づけ:対等な関係からの支援
勇気づけとは、「困難を克服する活力を与えること」です。
「褒める」「叱る」といった上下関係ではなく、対等な横の立場から感謝や気持ちを伝えることがポイントです。
勇気づけの7つのポイント
- 貢献や協力に注目する
- 過程・個人の成長・できていることに注目する
- 失敗しても受け入れる
- 相手に決断や選択をゆだねる
- 肯定的な表現で伝える
- わたし言葉+意見言葉を使う
- 相互に尊敬・信頼する関係を築く
例えば、部下の商談が成立しなかった場合でも、「夜遅くまで資料を作り込む努力をしていたことを見ています」「商談のクオリティは十分受注を獲得できるレベルでした」などと、過程や努力に注目して声をかけることが勇気づけになります。
アドラー心理学のメリット:人生が変わる5つの効果
アドラー心理学を実践することで、以下のような具体的なメリットを得ることができます。
現代社会で多くの人が抱える問題の解決に役立つ効果が期待できるでしょう。
物事をシンプルに捉えられる
アドラー心理学のロジックにより、複雑に思える問題もシンプルに整理できるようになります。
「今の状況は自分が選択した結果である」「自分の課題は自分で解決できる」という考え方により、問題解決への道筋が明確になります。
周囲とのしがらみを考慮しすぎることなく、本質的な課題に焦点を当てることで、効率的な問題解決が可能になるのです。
問題との向き合い方が分かる
問題に直面した際の対処法が明確になります。
「どうしたらいいのか悩む」のではなく、「自分の課題に対する解決方法を決定する」というシンプルなアプローチに変わります。
課題の分離により、自分がコントロールできる範囲を明確にすることで、無駄な悩みを減らし、建設的な行動に集中できるようになります。
「どう生きるか」が明確になる
自分の課題や選択肢についてシンプルに考えられるようになることで、人生哲学が明確になります。
他者の期待や社会的な圧力に惑わされることなく、自分らしい生き方を見つけることができるでしょう。
目的論に基づいた思考により、将来への明確なビジョンを持てるようになります。
自分のすべてを活用できる
アドラー心理学は自他共に尊重する考え方のため、自分に自信を持って前進できるようになります。
自分が持つ知識やスキルを存分に引き出し、フル活用できる状態を作り出せます。
劣等感を成長の原動力として活用する考え方により、弱点すらも強みに変換できる可能性が生まれます。
自分を変えられる
「自分を変えて将来を変える」という意識が芽生えることで、実際に自己変革を実現できるようになります。
過去のトラウマや環境のせいにするのではなく、現在の選択により未来を創造できるという希望を持てるようになるのです。
内発的な変化への意欲が高まることで、持続的な成長が可能になります。
アドラー心理学の注意点とデメリット
アドラー心理学には多くのメリットがありますが、実践する際に注意すべき点も存在します。
適切な理解と慎重な適用が重要です。
変化を前提とした考え方
アドラー心理学は「自分の変化を前提にしている」点が、場合によっては問題となる可能性があります。
「自分を変えたくない」「現状に満足している」と考える人にこの考え方を強要してしまうと、反発を招く恐れがあります。
対策方法
- 「自分を変えてもよい」という提案から始める
- 強制ではなく選択肢として提示する
- 個人のペースを尊重する
- 段階的なアプローチを心がける
誤った解釈による弊害
課題の分離や自己決定性を誤って解釈すると、以下のような問題が生じる可能性があります。
注意すべき誤解
- 放任主義や無関心と捉えられる恐れ
- 他者への支援を拒否する理由として悪用される
- 過度な自己責任論による自己批判の増加
- 承認欲求の完全否定による孤立感の増大
適切な理解と実践のためには、専門書の学習や研修の受講などが推奨されます。
アドラー心理学を学ぶための推奨書籍
アドラー心理学をより深く理解するために、以下の書籍を推奨します。
それぞれ異なるアプローチでアドラー心理学を解説しているため、自分に合った入門書を選ぶことが大切です。
『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著)
世界累計部数475万部を超えるベストセラーです。
哲学者と青年の対話形式でアドラー心理学を解説しており、「なぜ自分が変われないか」「劣等感を克服するには」などの身近な疑問に答えています。
初心者にも読みやすく、アドラー心理学の全体像を掴むのに最適な一冊です。
『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)
日本におけるアドラー心理学の第一人者による入門書です。
アドラー心理学の基本的な考え方や実践方法が体系的に解説されており、理論的な理解を深めたい方におすすめです。
オーディオブック版も利用できるため、通勤時間などを活用した学習も可能です。
『アドラー心理学 ―人生を変える思考スイッチの切り替え方―』(八巻秀著)
臨床心理士による実践的な解説書です。
イラストや漫画、図版を多用して視覚的にわかりやすく説明されており、日常生活での応用方法が具体的に示されています。
心理学初心者でも理解しやすい構成になっています。
まとめ:アドラー心理学で人生をより豊かに
アドラー心理学は、「誰もが幸せになれる」という希望に満ちた心理学です。
目的論、課題の分離、勇気づけなどの基本的な考え方を理解し実践することで、対人関係の改善、自己成長、ストレス軽減などの効果が期待できます。
現代社会で多くの人が抱える悩みに対する実践的な解決策を提供するアドラー心理学は、個人の生活だけでなく、職場でのマネジメントや教育の現場でも活用されています。
ただし、変化を前提とした考え方であることや、誤った解釈による弊害には十分注意が必要です。
適切な学習と段階的な実践により、アドラー心理学の恩恵を最大限に活用し、より充実した人生を送ることができるでしょう。
まずは書籍やセミナーを通じてアドラー心理学の基本を学び、日常生活の小さな場面から実践してみることをおすすめします。
自分らしい生き方を見つけ、他者との良好な関係を築きながら、より豊かな人生を歩んでいきましょう。