パートナーとのスキンシップやセックスに対して、「怖い」「痛い」といったネガティブな感情を抱いてしまうことは、決してあなた一人だけの悩みではありません。多くの女性が、身体的な痛みや精神的な不安から、性行為に対して恐怖心を抱いています。しかし、「パートナーに申し訳ない」「断ったら嫌われるかもしれない」という思いから、誰にも相談できずに一人で苦しんでいるケースが後を絶ちません。
恐怖心がある状態で無理をして行為を続けることは、心にも体にも非常に大きな負担となり、状況を悪化させる原因にもなります。大切なのは、まず「なぜ怖いと感じるのか」という根本的な原因を知り、自分自身を責めないことです。この記事では、セックスが怖いと感じてしまう医学的・心理的な背景を紐解き、少しずつ恐怖心を和らげていくための具体的なステップと対処法を専門的な視点から解説します。
目次
なぜ?「セックスが怖い」と感じてしまう主な4つの原因
セックスに対する恐怖心は、単なる「気の持ちよう」や「甘え」ではありません。そこには、身体の構造的な問題、脳の防御反応、あるいは過去の経験など、明確な理由が存在していることがほとんどです。原因がわからないまま恐怖と闘うのは非常に困難ですが、理由が明確になれば、それに対応する解決策も見えてきます。
ここでは、多くの女性が悩んでいる代表的な4つの要因について深掘りしていきます。ご自身の状況に当てはまるものがないか、焦らずに確認してみてください。原因は一つとは限らず、身体的な痛みと精神的な不安が複雑に絡み合っていることも珍しくありません。
1. 身体的な痛み(性交痛)による恐怖の条件付け
「セックス=痛いもの」という経験を繰り返すと、脳はその行為自体を恐怖の対象として認識するようになります。これを条件付けと呼びます。性交痛は決して珍しいことではなく、多くの女性が経験するものですが、痛みを我慢し続けることで、痛みへの恐怖が強化されてしまいます。
痛みの原因は多岐にわたりますが、大きく分けると「潤い不足」という生理的な現象と、「疾患」という医学的な問題に分類されます。特に、痛みが強い場合は、無理に精神論で解決しようとせず、身体的なSOSサインとして受け止めることが重要です。まずは、どのような身体的要因が考えられるかを見ていきましょう。
濡れない・潤い不足による摩擦痛
十分な愛液(腟分泌液)が分泌されていない状態で挿入を試みると、強い摩擦が生じ、裂けるような痛みを感じることがあります。女性の体は、性的興奮が高まってから十分に濡れるまでに時間を要します。しかし、前戯(前愛)が不足していたり、緊張やストレスで自律神経が乱れていたりすると、分泌液が出にくくなることがあります。
また、授乳期や更年期など、ホルモンバランスの変化によってエストロゲンが減少すると、腟内が乾燥しやすくなります。これは身体の自然な反応であり、あなたの努力不足ではありません。「濡れないこと」をプレッシャーに感じると、余計に身体が強張るという悪循環に陥りやすいため、まずは物理的な潤滑不足を疑うことが大切です。
婦人科系疾患(子宮内膜症・萎縮性腟炎など)の可能性
痛みの背後に、治療が必要な婦人科系の病気が隠れている場合もあります。例えば、子宮内膜症が進行していると、性行為の際に子宮周辺が圧迫され、お腹の奥に響くような激痛(深部性交痛)を感じることがあります。また、腟の入り口付近に炎症がある場合や、処女膜が強靭で柔軟性が低い場合も痛みの原因となります。
さらに、更年期以降の女性に多いのが「萎縮性腟炎」です。女性ホルモンの低下により腟の壁が薄く、弱くなることで、わずかな刺激でも痛みや出血を伴うようになります。これらは「慣れ」で治るものではなく、適切な医療的介入が必要です。痛みが持続する場合は、病気の可能性を考慮し、専門医の診断を仰ぐことが解決への第一歩となります。
2. 腟痙(ちつけい)などの心身症的要因
身体的な異常が見当たらないにもかかわらず、どうしても挿入できない、あるいは激痛が走るという場合、「腟痙(ちつけい)」と呼ばれる心身症的な反応が起きている可能性があります。これは、本人の「セックスしたい」という意思とは裏腹に、身体が防御反応を示してしまう状態です。
「性交痛障害」の一つとして分類されることもありますが、特徴的なのは筋肉の不随意的な収縮です。ここでは、なぜこのような反応が起きてしまうのか、そのメカニズムと、それに伴う心理的な悪循環について解説します。自分を責めがちな症状ですが、これは身体の反射機能の一種であることを理解しましょう。
無意識に筋肉が収縮して挿入できないメカニズム
腟痙(ちつけい)とは、腟の入り口を取り囲む筋肉や骨盤底筋群が、無意識のうちに強く痙攣(けいれん)し、収縮してしまう状態を指します。これにより、ペニスや指、時にはタンポンなどの挿入さえも物理的に不可能になったり、強い痛みを伴ったりします。
わかりやすい例として、目に何かが飛んできたときに、反射的に瞼(まぶた)を閉じてしまう反応に似ています。頭では「入れてもいい」と思っていても、身体が「異物が侵入してくる」と感知し、防御のために自動的に入り口を閉ざしてしまうのです。これは本人の意思でコントロールできるものではないため、「力を抜いて」「リラックスして」と言われても、容易には改善しないのが特徴です。
「痛いかもしれない」という予期不安の悪循環
一度でも強い痛みや恐怖を感じると、次回の行為の際に「また痛いのではないか」「また入らないのではないか」という強い予期不安が生じます。この不安が脳に伝わると、自律神経が緊張状態となり、全身の筋肉、特に骨盤周りの筋肉をさらに硬直させます。
その結果、筋肉が硬くなることで実際に痛みが増し、その痛みがさらなる恐怖を生むという「恐怖と痛みの悪循環(ペイン・サイクル)」が形成されます。このサイクルに入り込んでしまうと、パートナーが触れようとしただけで身体がビクッと反応してしまうなど、条件反射的な拒絶が強まってしまいます。心の問題が身体症状を引き起こし、それがまた心を苦しめるという構造を理解することが重要です。
3. 過去のトラウマや性被害(PTSD)の影響
過去に経験した性的な嫌な記憶や、心に深く残る傷(トラウマ)が、現在のセックスに対する恐怖心の根底にあることも少なくありません。性暴力やレイプ被害はもちろんのこと、同意のない行為、配慮のない言葉、あるいは幼少期の体験などが、大人になってからの性生活に影を落とすことがあります。
こうしたトラウマは、普段は意識の奥底に封じ込められていても、性的なシチュエーションになると突如として蘇ることがあります。これらはPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状の一つとして現れることもあり、専門的なケアが必要な領域です。
フラッシュバックと身体の拒絶反応
性的な行為の最中や、パートナーに触れられた瞬間に、過去の恐怖体験が鮮明に蘇ることを「フラッシュバック」と呼びます。映像として思い出されることもあれば、当時の感情や身体感覚(痛みや嫌悪感)だけが突然襲ってくることもあります。
この時、身体は「現在」ではなく「過去の危険な状況」にいると誤認し、緊急の防御態勢に入ります。心拍数の急上昇、過呼吸、あるいは身体が凍り付いたように動かなくなる「凍結反応(フリーズ)」が起こることもあります。これは、あなたが弱いからではなく、生存本能として身体があなたを守ろうとしている正常な反応です。無理に続けようとせず、まずは安心できる環境に戻ることが最優先されます。
信頼できるパートナーでも恐怖が消えない理由
「今のパートナーは優しくて信頼できる人なのに、なぜか怖い」と悩む方は非常に多いです。頭では「この人は加害者ではない」と理解していても、脳の扁桃体(へんとうたい)という危険を察知する部位が、性行為というシチュエーション自体を「危険」と判断してアラートを鳴らしてしまうからです。
また、過去のトラウマから自分を守るために、感情を切り離す「解離」という防衛機制が働くこともあります。行為中に心がどこかへ行ってしまったような感覚になったり、自分の体を他人のもののように感じたりするのはこのためです。パートナーへの愛情の有無とは全く別の次元で、脳の配線が「性=恐怖」と結びついてしまっているため、時間をかけた心のケアが必要になります。
4. セックスに対する誤った認識や知識不足
特に性経験が少ない方や、厳格な家庭環境で育った方に多いのが、セックスに対する誤ったイメージや知識不足による恐怖心です。インターネットやフィクション作品で描かれる極端な性描写を真実だと思い込んでいたり、性教育が不十分であったりすることが、過度な不安を煽る原因となります。
「セックスは痛いもの」「出血して当たり前」といった思い込みは、必要以上の緊張を生み、結果として本当に痛みを引き起こしてしまうことがあります。正しい知識を持つことは、漠然とした恐怖を具体的な対処可能な課題へと変える力になります。
初体験への過度な緊張と出血への恐怖
初体験や経験が浅い段階では、「処女膜が破れるときは激痛が走る」「大量に出血する」といったイメージを抱いている方が少なくありません。しかし医学的には、処女膜は膜というよりはヒダ状の組織であり、必ずしも「破れて出血する」とは限りません。伸縮性があるため、十分な潤いとリラックスがあれば、痛みや出血をほとんど伴わずに挿入できることも多いのです。
しかし、「絶対に痛い」と身構えて全身に力が入っていると、腟口が狭まり、摩擦による痛みが生じやすくなります。未知の体験に対する緊張は自然なことですが、過剰に恐れることで身体が硬直し、スムーズな性交を妨げてしまうパラドックスが起きています。
妊娠や性感染症への極度な不安
「妊娠してしまうのではないか」「性病にかかるのではないか」というリスクへの不安が強すぎて、セックスそのものを楽しむどころか、恐怖の対象としてしか見られなくなるケースもあります。特に、避妊に関する正しい知識が曖昧な場合、行為のたびに強いストレスを感じることになります。
コンドームの正しい使用率や、低用量ピルなどの避妊方法についての知識があれば、リスクをコントロールできる自信がつきます。しかし、知識がないまま「失敗したらどうしよう」という不安だけが先行すると、パートナーを受け入れること自体が「危険な行為」となり、心身が拒絶反応を示してしまいます。正しい知識で自衛することは、安心感を得るための重要なステップです。
セックスが怖いまま無理をすることのリスク
「パートナーを満足させなければならない」「夫婦なのだから応じる義務がある」といった責任感から、恐怖心や痛みを押し殺してセックスを続けている方は少なくありません。しかし、自分の心を無視して身体を差し出すような行為は、長期的には二人の関係性やあなた自身の健康に深刻なダメージを与える可能性があります。
我慢は美徳ではなく、事態を悪化させる要因になり得ます。ここでは、恐怖心を抱えたまま無理にセックスを継続することで生じる具体的なリスクについて解説します。今の状況を変える勇気を持つために、リスクを正しく認識しましょう。
性嫌悪や更なる性交痛の悪化
嫌だと感じていることを無理やり続けると、脳はその行為を「不快な刺激」「攻撃」としてより強く記憶します。最初は「怖い」という感情だけだったものが、次第に生理的な嫌悪感、すなわち「性嫌悪」へと発展してしまう可能性があります。パートナーが近づくだけで吐き気がしたり、肌に触れられることすら耐えられなくなったりすることもあります。
また、身体的にもリスクがあります。痛みを我慢して筋肉が強張った状態で挿入を繰り返すと、腟の入り口が炎症を起こしたり、微細な傷(裂傷)ができたりします。傷が治りきらないうちに次の行為を行うことで慢性化し、性交痛がより難治性のものになってしまいます。心と体のアレルギー反応が強くなる前に、無理な継続をストップする必要があります。
パートナーとの心理的な溝とレス化
多くの女性は、パートナーに心配をかけまいとして痛みを隠したり、演技をしたりすることがあります。しかし、パートナーは意外と相手の違和感に気づくものです。「楽しんでいないようだ」「何か避けている気がする」と感じると、パートナー側も自信を喪失したり、拒絶されたと感じて傷ついたりします。
また、本当の理由(恐怖や痛み)を伝えないまま拒否を続けると、パートナーは「自分が愛されていない」「浮気をしているのではないか」と誤解し、不信感を募らせる原因になります。結果として、お互いにセックスという話題を避けるようになり、深刻なセックスレスや、夫婦関係の破綻を招くことになりかねません。沈黙して我慢することは、関係を守ることにはつながらないのです。
自己肯定感の低下と鬱(うつ)的な症状
セックスができない自分、パートナーに応えられない自分に対して、「女性としての機能が欠けている」「妻失格だ」と激しく自分を責めてしまう方がいます。このような自責の念は、自己肯定感を著しく低下させます。
日常生活でも自信を持てなくなり、常に罪悪感を抱えて過ごすことで、気分の落ち込みや不眠、食欲不振といった鬱(うつ)的な症状が現れることもあります。セックスの問題は、単なる夜の生活の問題にとどまらず、個人の尊厳やメンタルヘルス全体に関わる重要な問題です。自分を追い詰めてしまう前に、適切なケアや休息が必要です。
「セックスが怖い」を克服するための段階的ステップ【セルフケア編】
セックスへの恐怖を克服するために、いきなり「普通にセックスをする」ことを目標にする必要はありません。高いハードルを一気に越えようとすると、失敗した時のダメージが大きく、逆効果になることがあります。まずは自分の体と心に向き合い、恐怖心を取り除くためのスモールステップから始めましょう。
ここでは、医療機関に行く前や、パートナーと話し合う前に、自分一人でも試せる、あるいはパートナーと少しずつ実践できるセルフケアの方法を紹介します。焦らず、自分のペースで進めることが何より大切です。
ステップ1:自分の体の声を聞く(セルフプレジャーと探索)
セックスが怖いと感じる方の中には、自分の性器を見たり触れたりすること自体に抵抗がある方もいます。しかし、自分の体のどこが敏感で、どこが痛むのかを知ることは、恐怖心をコントロールするための第一歩です。パートナー不在の安全な環境で、自分の体を再確認する作業から始めてみましょう。
恐怖を感じない範囲で自分の体に触れる重要性
まずは、お風呂場や寝室など、絶対に邪魔が入らないリラックスできる場所で、自分の体に触れてみます。性的な興奮を目的とする必要はありません。手足や胸、お腹などを優しく撫でて、自分の体が「自分のものである」という感覚を取り戻します。
抵抗がなければ、外陰部に触れてみましょう。鏡を使って形状を確認することも有効です。未知のものへの恐怖は、知ることで和らぎます。「ここにあるのはただの身体の一部だ」と認識することで、性器に対する過度なタブー視や恐怖心が薄れる効果が期待できます。不快感があればすぐに中止し、できる範囲で行ってください。
どこが痛いのか、どこなら大丈夫かを知る
もし可能であれば、指を使って痛みの場所を特定してみます(セルフチェック)。腟の入り口が痛いのか、奥が痛いのか、あるいは特定の方向(例えば時計の6時の方向など)に痛みがあるのかを探ります。指を入れるのが怖ければ、入り口に触れるだけでも構いません。
「自分でコントロールできる状況」で痛みの有無を確認することは、パートナーとの行為中に感じる「いつ痛くされるかわからない」という予期不安とは異なります。痛みの場所がわかれば、パートナーに対して「ここは触らないで」「ここなら大丈夫」と具体的に伝えることができるようになります。
ステップ2:物理的な痛みを軽減する工夫
痛みが恐怖の主な原因である場合、物理的に痛みを減らす工夫をするだけで、精神的な負担が大幅に軽くなることがあります。「痛くないかもしれない」という成功体験を積み重ねることが、克服への近道です。
ここでは、潤滑ゼリーの活用や環境づくりなど、すぐに実践できる具体的なテクニックを紹介します。これらは決して恥ずかしいことではなく、快適なセックスライフのために多くのカップルが取り入れている方法です。
潤滑ゼリー(ローション)の正しい選び方と使い方
潤滑ゼリーは、性交痛緩和の最も手軽で効果的なアイテムです。ドラッグストアや通販で容易に入手できます。選ぶ際は、成分や粘度に注目しましょう。
- 水溶性:サラッとしていて洗い流しやすい。ゴム製品との相性が良い。乾きやすいのが難点。
- シリコン系:持続性が高く、水でも落ちにくい。お風呂場での使用に適しているが、シーツに付くと落ちにくい。
ポイントは「多すぎるかな?」と思うくらいの量を使うことです。腟の入り口だけでなく、パートナーのペニスにもたっぷりと塗布してください。途中で乾いてきたら、遠慮なく追加しましょう。痛みを防ぐための必須アイテムとして、常備しておくことをお勧めします。
リラックス効果のある環境づくりと前戯(前愛)の見直し
緊張は痛みの敵です。部屋の照明を落とす、アロマを焚く、リラックスできる音楽をかけるなど、五感を落ち着かせる環境づくりを意識してください。身体が冷えていると筋肉が硬くなるため、事前にお風呂で温まるのも効果的です。
また、前戯(前愛)の時間を普段の倍以上かけてみてください。挿入をゴールにするのではなく、マッサージやハグ、キスを通じて、全身の緊張をほぐすことに時間を割きます。十分にリラックスし、身体が温まった状態を作ることで、自然な潤いも促され、挿入時の痛みが軽減されます。
ステップ3:非挿入(ノンペネトレーション)でのスキンシップ
「セックス=挿入」という固定観念を一度捨ててみましょう。挿入を伴わないセックス(ノンペネトレーション・セックス)でも、十分な愛着形成や性的満足を得ることは可能です。「今日は絶対に挿入しない」と決めることで、挿入へのプレッシャーから解放され、純粋に触れ合いを楽しめるようになります。
この段階を踏むことで、パートナーとの信頼関係を再構築し、性に対する恐怖心を徐々に上書きしていくことができます。
挿入にこだわらず、愛撫だけで満足感を得る方法
手や口を使った愛撫(オーラルセックスなど)や、互いの体を密着させて温もりを感じ合うことだけに集中する日を設けます。挿入という「痛みを伴うかもしれない工程」を除外することで、リラックスして快感に集中できるか試してみてください。
パートナーにも、「挿入は怖いけれど、あなたと触れ合いたい気持ちはある」と伝え、これならできるというラインを提示します。このプロセスを通じて、「セックスは挿入しなくても成立する」という安心感を共有できれば、精神的な負担は大きく減ります。
「センセートフォーカス法」を取り入れた感覚訓練
性機能障害の治療法として用いられる「センセートフォーカス法(感覚焦点化法)」を応用するのも有効です。これは、性的な興奮を目的とせず、ただ「触れる」「触れられる」感覚に集中するトレーニングです。
最初は服を着たまま手をつなぐ、次は背中をさする、慣れてきたら裸で触れ合う、といったように段階を追って進めます。重要なルールは「不快ならいつでもストップできること」と「挿入は禁止すること」です。これにより、パートナーに触れられることへの恐怖反応(条件反射)を少しずつ消去していきます。
パートナーに「セックスが怖い」気持ちをどう伝えるか
セックスの恐怖を克服するためには、パートナーの理解と協力が不可欠です。しかし、デリケートな問題であるため、伝え方を間違えると「拒絶された」と受け取られ、関係が悪化してしまう恐れがあります。男性には男性の悩みやプライドがあることを理解した上で、建設的な話し合いをする必要があります。
ここでは、お互いの心を傷つけずに、現状を正しく伝え、協力体制を築くためのコミュニケーション術について解説します。
伝えるタイミングと場所の選び方
最も避けるべきなのは、ベッドの中や、セックスの直前・最中に伝えることです。このタイミングでは、お互いに感情的になりやすく、パートナーも興奮状態にあるため、冷静な話し合いができません。また、拒絶されたショックが大きく残ります。
話をするなら、休日の昼下がりや、夕食後のリラックスしている時間帯など、性的な雰囲気がない時を選びましょう。カフェやリビングなど、明るく落ち着いた場所が適しています。あらかじめ「二人のこれからのために、少し大事な話をしたい」と前置きをし、真剣かつ穏やかなトーンで切り出すことが大切です。
男性のプライドを傷つけずに事実を伝える会話術
男性にとって、パートナーからのセックス拒否は、全人格を否定されたような衝撃を受けることがあります。「痛い」「怖い」という事実だけを伝えると、「俺のやり方が下手なのか」「俺に魅力がないのか」とネガティブに捉えられがちです。言葉選びには十分な配慮が必要です。
「あなたが嫌いなわけではない」ことを強調する
会話の冒頭と最後には、必ず「あなたのことは愛している」「あなたとの関係を大切にしたい」というメッセージを挟みます(サンドイッチ法)。問題なのは「あなた」ではなく、「痛み」や「恐怖心」という現象であることを明確に区別してください。
「あなたのことは大好きなんだけど、どうしても体が痛くて反応してしまうの」「心ではもっと近づきたいと思っているのに、体がついていかなくて悩んでいる」といったように、自分もこの状況を辛く思っていることを伝えると、パートナーの共感を得やすくなります。
具体的に「どうしてほしいか(待ってほしい、優しくしてほしい)」を伝える
男性は、漠然とした感情の話よりも、具体的な解決策や指示を好む傾向があります。「ただ怖い」と言うだけでなく、「どうすれば協力できるか」を提示しましょう。
- 「挿入はしばらく休んで、手をつないで寝るだけにしてほしい」
- 「ローションをたっぷり使って、ゆっくり時間をかけてほしい」
- 「痛いと言ったらすぐに止めてくれる約束をしてほしい」
このように具体的なリクエストをすることで、パートナーも「何をすれば役に立てるか」が明確になり、協力しやすくなります。
パートナーと一緒にカウンセリングを受ける選択肢
もし、二人だけで話し合うのが難しい場合や、すでに関係がこじれてしまっている場合は、カップルカウンセリング(夫婦カウンセリング)を受けるのも一つの選択肢です。専門家という第三者が介入することで、感情的にならずに互いの本音を整理することができます。
日本ではまだハードルが高く感じるかもしれませんが、関係修復のためにプロの手を借りることは、欧米では一般的です。パートナーに「二人の関係を良くするために行きたい」と提案してみましょう。
専門家に頼るべきタイミングと病院の選び方
セルフケアやパートナーとの協力で改善が見られない場合、あるいは痛みが激しい場合は、迷わず医療機関を受診してください。セックスの悩みは「病気ではない」と思われがちですが、医学的な治療が必要なケースは多々あります。
ただし、どの診療科に行けばよいか迷うことも多いでしょう。ここでは、症状に合わせた適切な病院の選び方を解説します。
婦人科・産婦人科へ行くべきケース
身体的な痛み、違和感、出血など、物理的な症状がある場合は、まずは婦人科を受診してください。器質的な疾患(子宮内膜症や炎症など)がないかを確認することが最優先です。
明らかな痛み、出血、身体的違和感がある場合
「挿入時に刺すような痛みがある」「行為後に出血する」「おりものの様子がおかしい」といった症状は、検査で原因が特定できる可能性があります。内診を受けることに抵抗があるかもしれませんが、医師に事前に「性交痛が辛くて受診しました」「痛みに敏感です」と伝えておけば、配慮した診察を受けられます。
性交痛外来や女性専門外来の活用
一般的な婦人科では「特に異常なし」と言われてしまうこともあります。より専門的な相談をしたい場合は、「性交痛外来」「女性性機能外来」などを掲げているクリニックを探してみましょう。こうした専門外来では、一般的な検査に加え、腟痙(ちつけい)の診断や、潤滑剤の処方、リハビリテーションの指導などを行っている場合があります。
心療内科・精神科・カウンセリングへ行くべきケース
婦人科で「異常なし」と言われた場合や、過去のトラウマ、極度の不安感が原因である場合は、心の専門家を頼りましょう。
トラウマや極度の不安感が強い場合
性行為を想像しただけで動悸がする、過去の記憶がフラッシュバックする、気分が著しく落ち込むといった場合は、PTSDや不安障害の可能性があります。心療内科や精神科で、抗不安薬の処方や専門的な治療を受けることで、症状が緩和されることがあります。
認知行動療法などの心理的アプローチ
臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングでは、「認知行動療法」などの手法を用いて、セックスに対する歪んだ認知(極端な恐怖イメージ)を修正していくアプローチが行われます。薬を使わずに、対話を通じて少しずつ心の結びつきを解いていく方法です。婦人科と連携しているカウンセリングルームもありますので、調べてみることをお勧めします。
FAQ(よくある質問)
セックスへの恐怖や不安に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q. セックスが怖くて結婚生活が続けられるか不安です。
A. セックスだけが夫婦の絆ではありませんが、お互いの納得が必要です。
セックスレスでも仲の良い夫婦はたくさんいます。しかし、片方が強く望んでいる場合は不和の原因になります。重要なのは「できないこと」を責めるのではなく、「今の状態でできるスキンシップ」を探し、コミュニケーションを絶やさないことです。専門家の介入も含め、長期的な視点で関係を作っていくことが大切です。
Q. 痛くないセックスをするための体位はありますか?
A. 女性が挿入の深さや角度をコントロールできる体位がおすすめです。
一般的に「騎乗位(女性が上)」は、自分で深さを調整できるため、恐怖感が少なくなりやすいと言われています。また、「側位(横向き)」は、深く挿入されにくく、リラックスしやすい体位です。パートナーと協力して、痛みのない角度を探してみてください。
Q. 腟痙(ちつけい)は自力で治せますか?
A. 軽度ならセルフケアで改善することもありますが、専門治療が近道です。
腟痙は条件反射的な筋肉の収縮なので、無理に広げようとするのは逆効果です。医療機関では、細いダイレーター(拡張器)を使って少しずつ慣らしていく治療が行われます。自己判断で無理をするより、専門医の指導の下で治療を進める方が安全で確実です。
Q. パートナーが理解してくれない場合、どうすればいいですか?
A. 第三者を交えるか、手紙などで冷静に伝えてみましょう。
口頭で伝わらない場合、感情的にならずに済む手紙やLINEで、記事や医学的な情報を添えて伝えてみるのも一つの手です。「私のわがままではなく、医学的な理由がある」と示すことが重要です。それでも理解が得られず、強要されるようであれば、それはDV(ドメスティック・バイオレンス)の可能性があります。相談窓口などを利用し、身の安全を考える必要があります。
まとめ
セックスが怖いと感じることは、あなたの心が発している大切なSOSです。それは「愛が足りない」からでも、「女性として欠陥がある」からでもありません。身体的な痛み、過去の傷、あるいは誤った情報による不安など、必ずそこには理由があります。
解決への道のりは、一朝一夕ではないかもしれません。しかし、原因を知り、パートナーと対話し、必要であれば専門家の力を借りることで、状況は必ず変化します。焦って無理をする必要はありません。まずは自分自身をいたわり、「痛くない、怖くない」と思える安心感を、小さなステップから積み重ねていってください。あなたが心から安心できる関係性を築けることを願っています。